あらまし

 第2次世界大戦直後の昭和24年(1949年)、郵便局の割増金付定期貯金で1等賞金100万円に当選した怡土村(現在の怡土校区)瑞梅寺在住の三苫又八郎翁(当時68歳)は、賞金全額を怡土村に寄付され、その寄付金は戦後の疲弊した村の復興のために次のように使われました。

(当時の100万円は、今の1億円位の感覚ではないでしょうか)

 (1)  初代怡土公民館の建設

 (2)  怡土中学校・怡土小学校の科学化の一環として、

     放送設備の導入とピアノ・オルガン・幻灯機・顕微鏡の購入 

 (3) 怡土村瑞梅寺部落の放送設備の導入

 

● ことの起こり

 この割増金付定期貯金は、当時の郵便貯金奨励のために全国的に実施された制度で、割り当て消化に窮した親類の波多江郵便局長のたっての要請に応えた僅か一口の定期貯金が、思いがけなく1等賞に当選したものでした

 (割増金付定期貯金の当選は「宝くじ」の当選と混同され勝ちですが、割増金付定期貯金は〈割増金付貯蓄の取扱に関する法律〉(1948年)に基づく安定性預金の吸収を図る施策で、射幸心をあおる「宝くじ」とは趣旨が異なります なお、戦後の自治宝くじ発売は昭和29年(1954年)が最初ですから、その5年も前のことでした)

 

● 当時の翁の環境と信念

 当時の翁は、長男が戦死し 孫も幼少で経済的には恵まれていない状況でしたが、「勤労の範囲内で生活するのが信条で、働かないで得た金は私有しない、敗戦後の日本の建て直しは教育にあり」という信念のままに、賞金100万円全額を怡土村に寄付されたもので、富裕層の慈善行為とは異質のものでした

 

● 寄付金の使途

 怡土校区を縦断する瑞梅寺川は、戦中戦後を通じて整備が行き届かず、大雨の度に氾濫して周辺に洪水被害をもたらしていたので、翁はこの寄付金を瑞梅寺川の改修に充てることを希望されていましたが、瑞梅寺川は国家管理河川のために村の費用で改修することが叶わず、次善の策として村営施設の充実に当てられたと聞いています

 

● 篤行の評価 1

  翁は、この篤行によって昭和27年(1952年)に紺綬褒章を受章され、昭和28年(1953年)には旧怡土村民の感謝の気持ちを込めて顕彰碑が建立されました 

   この顕彰碑は旧怡土村の費用で建立され、瑞梅寺川 上流からの巨石搬出から建設に至るまで村内各地区の方々が手弁当でご参画下さり、顕彰碑の除幕式は村の行事として挙行されました

 その顕彰碑は、現在は瑞梅寺小学校跡地にある「糸島市立瑞梅寺山の家」の、林間広場にあります

 また、紺綬褒章の受賞には、旧怡土村の有志の方々に一方ならずお世話になったと聞いています

 【参考】「糸島市立瑞梅寺山の家」の詳しいことは、

  http://www.city.itoshima.lg.jp/s025/020/020/010/010/254_39865_misc.pdf

  

● 篤行の評価 2

 その篤行を伝え聞いた彫刻家岡本俊雄氏によって等身大の胸像が制作され、翁が昭和32年(1957年)に他界されてから半世紀余りを経た現在も、往時の翁の姿を留めています

 詳細は参考資料1.毎日新聞社刊 「サンデー毎日」  昭和28年(1953年)7月5日号 P64~65 および

 参考資料2.人物福岡社刊 「人物福岡」 昭和33年(1958年)1月1日号 P4~6 参照) 

 

 

 当選金寄付前後の報道  

 

1.「糸島新聞」昭和24年(1948年)25日号に「わが糸島に 百萬円長者 幸運の人は誰?」の記事が掲載され、「この百萬円は、郵便局の割り増し付定期貯金の当選金」と報じられました

   詳細は、参考資料 A-1の同記事参照)

  

2.「糸島新聞」昭和24年(1948年)219日号に「百萬圓 全部寄付する 幸運の三苫氏談」の記事が掲載され、当選金百萬円を全額寄附された三苫又八郎翁の所懐が紹介されました

  (詳細は、参考資料 A-の同記事参照)

  

3.「糸島新聞」昭和25年(1950年)826日号「七十翁の精励 全部落を興す」の記事が掲載され、三苫又八郎翁の暮らしぶりが、短く紹介されています

 詳細は、参考資料 Bの同記事参照)

 

4.「糸島新聞」昭和28(195366日号「黨選の百万円を村に投げ出した 陽気な水車小屋の一家 話題の老人三苫又八郎さんを訪う」

新設の怡土村公民館の竣工を目前にして、その工費75万円のうち50万円は、かつて同村の三苫又八郎翁(72)が村の公共事業費として寄付された百万円の半分」であることや、当時の翁の暮らしぶりや所懐が詳しく紹介されています

参考資料1の毎日新聞社刊「サンデー毎日」 昭和28(1953)75日号 P6465は、この記事を参考にされたことが窺われます

詳細は参考資料 C の同記事参照)